ペロタン東京 (六本木6-6-9 ピラミデ1F)
スウェーデン出身のアーティスト、シグリッド・サンドストロームの日本で初となる個展が、ペロタン東京にて開催。
サンドロームの描く風景画は、地理学、社会学、哲学からインスピレーションを得て知覚と空想を丁寧に表現し、抽象的でありながら観る者に明確なイメージを連想させる。
本展のテーマは光と影。タイトルでもある「Dusk(夕暮れ)」は単なる時間ではなく「状態」であり、日が落ちていき明るいところから暗いところへ、光が折り重なり引いていく瞬間を描いている。
サンドロームは幼いころに過ごしたストックホルム郊外の大自然に影響を受け、文字通りの意味でも比喩的な意味でも、長きにわたり夕暮れに魅了されてきた。
薪を割り井戸から水を汲むアナログな暮らしや、北欧の長い夜を家族と過ごした記憶は、サンドストロームの感性に多くの影響を与え続けている。
本展の絵画を制作する過程において、サンドロームは明るさというものが、いかに何かを「照らし出す」と同時に、何かを「消し去る」のかという二項対立について、また谷崎潤一郎の著作の中でも日本美術や建築における暗がり、影、微妙な差異の美学について評論した『陰影礼賛』(1933年)に思いを馳せた。
本展の会場に入ると、夕暮れ時を思わせる淡い光や、霞がかった北欧の自然を思わせるような、ブルーとグレーの色彩に迎えられる。サンドロームにとって、青は制作時に頭に思い浮かぶ大切な色だそうだ。
展示エリアは3つに分かれており、真ん中の部屋は照明を落とし、スポットライトのみで作品を照らしている。
入った瞬間は暗く感じるが、目が慣れてくるとふわっと浮かび上がるように絵が現れ、『Dusk』の光の中で観ているような気持ちになる。明るいエリアからこのエリアに移動することによって、鑑賞者は光の表現の変化を体験することができるのだ。
この部屋の入口の近くに飾られている《Distance in Blue》は、サンドロームが幼いころにキャビンから見た景色そのままを描いているそうだ。落ち着いたトーンだが、きらきら光る画材が使われており、星のようにも、輝く水しぶきのようにも、人によって見えてくる姿や捉え方も変わるだろう。闇がいかに照らすのか、ぜひ自身の目で観て体験してほしい。
再び最初の展示エリアに戻ると、表と裏の両方から観ることができる作品があることに気がついた。
吊るされて展示されている《Borealis》(2024)は、ギャラリー側から観るとやわらかい印象だが、反対側には力強い筆使いと鮮やかな色あいの姿が現れる。再び表から見ると、反対側からにじみ出る色や線がほのかに見え、絵に奥行きが生まれるのだ。
実は壁かけで展示されている他の作品にも、裏面からも描かれているものがある。サンドロームのアプローチの面白いところは、表裏、どちらも同時に進めて描き、制作の途中でどちらを表面にするか決めるそうだ。
本展の作品のなかには、もともと裏面だったものが表面となったものもあるとのこと。にじみ出た色やうっすらと見える線から、裏面の姿を想像するのも面白い。
表があるから裏があり、その逆もしかりというサンドロームの絵画は、光があるから影がある、両者の混じり合うところから、より意義のある何かが現れてくるという本展のテーマにも通じるものがある。
光と影がとけ合う刹那の風景を観に、会場に足を運んでみてはいかがだろうか。
【会期】1月17日(金)〜3月22日(土)
【休廊日】日・月曜日、祝日
【開廊時間】11:00〜19:00
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