六本木ヒルズ A/Dギャラリー
三次元で制作したものを二次元に置換し、独自の世界を表現するアーティスト・松田ハルの個展が開催中。
松田の作品は、3DCGやVRの技術を駆使して仮想空間に3Dオブジェクトをモデリングし、それをもとにシルクスクリーンなどで平面作品に落とし込んでいく。
『VR』と聞いてイメージする通り、制作の際はゴーグルを装着して、何もない空間の中で手や体を動かしながらオブジェクトを描いていくそうだ。その過程を聞くだけで「そんなことができるのか」とワクワクする。
その後、仮想空間で作ったものをもとに、現実空間の中で形にしていくのだが、その手法は、シルクスクリーン印刷やペインティングなどを用いる。
最先端の技術を用いた後で、古くからあるシルクスクリーンという技術で作品を完成させるという、他にはない制作方法がなんとも面白い。
また、近年、松田は彫刻や映像作品へと、作品の幅を広げ続けている。
本展では「宇宙」をテーマに、ペインティング、彫刻、映像作品の新作をインスタレーション形式で展示している。
会場に入ると、まず映像作品が目に飛び込み、近くには登場人物の彫刻が展示されている。
映像のストーリーを追っていくと、会場内の絵画も、映像作品の一場面が切り取られていたり、登場するオブジェクトが描かれていたりと、ジャンルの異なる全ての作品がリンクしていることに気づくのだ。
本展のテーマを決めたきっかけについて、松田はこのように語った。
「アポロ計画とか、私が生まれる前の時代の白黒の写真を見ていると、『これはどこだろう?』と不思議な気持ちになります。当時からいろいろ言われていたようですが、月に行くということや宇宙は、自分にとってフィクションなのか真実か、リアリティーを感じられず、わからない話なのです。そして今、私が取り組んでいるテクノロジーについて考えた時、VRや仮想現実の世界で作品を制作していることもあり、フィクションからリアルまで、という中に宇宙とどこかつながる部分があると感じてテーマとしました」。
松田は大学で版画を専攻したが、VRなどの最新技術は独学で学んだ。そして本展では新しい試みとして、AIをある種のパートナーとして、制作の一部に取り入れたそうだ。
「彫刻と映像に関しては一部AIを利用しました。制作を手伝ってもらうとしても、それを動かすのは結局自分です。よく、アーティストがAIを用いてどうなっていくのか、仕事が置き換わってしまうのでは、という議論が起こっているようですが、私は人間の作ったものや経験を学んでいるAIは、人間の範囲を出ることはなく、鏡のようなものだと思っています。人によるとは思いますが、AIをうまくパートナーとして、新しい技術をどんどん入れて、もっとラフに関わっていけるのでは、と思っています」。
制作の幅を広げているだけではなく、新しい技術をも躊躇せず、挑戦というよりは軽やかに、楽しみながら取り入れているようだ。
これからどんな作品を生み出すのか、私たちはどのような松田の作品に出合えるのか、期待せずにはいられない。
【会期】3月14日(金)〜3月30日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00
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