天明屋尚「COUNTEROFFENSIVE」

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/6/27(金)
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天明屋尚「COUNTEROFFENSIVE」

 日本の伝統絵画技法を現代の感性で再構築し、「ネオ日本画」という独自のスタイルを確立してきたアーティスト、天明屋尚の個展が開催中。
日本画を進化させ続けようという天明屋の作品は、2006年サッカーW杯ドイツ大会FIFAワールドカップ公式アートポスターでは、日本代表作家として唯一選出されるなど、国内外で高い人気と評価を誇る。

 反撃という意味をもつ本展のタイトルは、AIが急速に発展し人間の知能を超える転換点がそう遠い未来ではないと言われる現代、テクノロジーに対するアナログの逆襲という意味が込められている。

 「神なき時代といわれて久しい現在、質問すれば何でも返ってくるChat GPTを『神との対話』のように崇める人も多いそうです。ラスコー洞窟の壁画から始まり、宗教画などを経て発展してきた絵画が、写真やコンピュータグラフィックスなど、新技術の興隆の度にその存在意義が危惧され、ついにはものの数秒でAIにより絵ができるようになりました。そういう時代に、絵を描く者として反抗するという気持ちを込めたタイトルとし、神や戦いをテーマとした作品を描きました」。

 写真技術が誕生した当時、フランスの画家、ポール・ドラローシュは「今日を限りに絵画は死んだ」と言ったそうだが、本展を観ると、ドラローシュの言葉を借りれば「絵画は死なない!」と思える作品が並んでいる。
 光を放つようにも見える明るい色使い、今にも動きだしそうな人物描写に目を奪われる。馬のたてがみや人物が身に着けている鎧など、『これほどまで?』と驚くほど丁寧に描きこまれており、特に人物の髪の繊細さ、身体や着物の線などは、風を感じるようだ。

 授業中にずっと絵を描いていて怒られる子どもだったという天明屋は、教師に母親が何度も呼び出され「絵を習わせたらどうか」という教師の勧めにより、小学3年生で老人の肖像画を描く西洋画家に弟子入りした後、転居により別の教室にて習ったのがたまたま日本画だったという。そのためか、少し離れてみると本展の作品は色使いなど西洋画にも見える瞬間もある。

 「幼少期とはいえ両方を学んだので、少しハイブリッドされているのかもしれませんね。でも近くで見ると、輪郭線がある。日本画とは、と問われると、輪郭線が重要だと考えます。また、日本画とは一般的に陰影がないものですが、幕末明治期の作品では陰影が描かれているものもあり、そのあたりの表現も参考にはなっています。色合いが明るいですか?そうですね、独特の色だとよく言われます」。

 細かい部分は一番細い筆を使い、時間をかけて描くそうだが、「色をのせる作品と違い、墨の作品はリカバーできないので、それこそ線をひく時には息を止めて描きます」。
会場内では、濃淡の美しい墨の作品も多数見ることができる。一度濃い色を乗せると戻せないため、薄く薄く、10〜20回ほど重ねているので、色が幅広く表現されている。少し前に流行した「白は200色ある」という言葉ではないが、墨の濃淡で何色もの色を感じることができるのだ。

 インタビュー前にWEBにて本展の作品を見て楽しみにしていたが、会場で作品を見ると伝わってくるものが何倍も多く、驚きであった。
風や物語の空気をも伝える線、美しく澄んだ色彩など、どれだけ科学技術が発展しても、長い時間をかけた手描きの絵にはかなわない、と思える鑑賞体験をぜひ楽しんでほしい。

【会期】6月27日(金)〜7月13日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00

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