苫米地 正樹「Complete Exhibition of Ceramics」

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/8/8(金)
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苫米地 正樹「Complete Exhibition of Ceramics」

 ネイティブアメリカンの地への旅を通して、異文化の精神性と日本の美意識を交差させ、唯一無二の造形表現を生み出す陶芸家、苫米地正樹の個展が開催中。
 高校在学中から陶芸の公募展で入選するなど、若くして頭角を現していた苫米地は、陶磁器商社の研究所を経て独立し、陶芸家として国内外で活躍している。

 タイトルの「Complete Exhibition of Ceramics」のとおり、本展は苫米地がこれまでに制作してきた作品シリーズを一堂に会し、その創作の軌跡を辿ることができる。

 苫米地といえば、ファンの間で「ベッチーブルー」と呼ばれる色と、貫入に墨を染み込ませることで表面に現れる網目のような模様が有名だが、色はネイティブアメリカンのアクセサリーに使われるトルコ石(ターコイズ)のブルーを、繊細な模様はトルコ石に現れる「スパイダーウェブ」と呼ばれる模様を表現しているそうだ。
ネイティブアメリカンの要素を作品づくりに取り入れるようになったきっかけはどのようなものだろうか。

 「子どもの頃、姉にもらった赤い自転車を『好きな色に塗ろう』と選んだのがターコイズブルーで、なぜか昔からこの色が好きでした。ターコイズブルーから『この色の石があるのか』と、ターコイズに興味をもち始め、ターコイズを使ったインディアンジュエリーからネイティブアメリカンの文化に興味をもち……と発展していきました」。

 ネイティブアメリカン居住地を訪れるほどの苫米地が、その文化に関心を持ったきっかけが『色』だとは意外であった。
「子どもの頃、父が勤めていたギャラリーが僕の遊び場で、画材も扱っていたので、色やグラデーションパターンの表を見ることが大好きでした。たくさんの色にふれる中でターコイズブルーに惹かれたのかな、と思います。また、段ボールで作ったロボットをギャラリーに飾るなど、ものをつくることも好きでした」。

 ネイティブアメリカンの地には今も足を運んでいるのか尋ねると、
「コロナ禍以降は足を運べていませんが、以前訪れたホピ族の他にもいろいろな部族の居住地があり、それぞれ作るものが違うので、別の地域も訪れてみたいです。また、ホピ族のアクセサリーの『オーバーレイ技法』は陶芸で表現することが難しいのですが、それにも挑戦したいと思っています」と、今後の作品展開が楽しみになる話をしてくれた。

 また、本展では苫米地のオブジェ作品もたくさん見ることができる。その一つが、日本のこけしのようにも見えるシリーズ《kokena(コケナ)》だ。
「これは、こけしとホピ族の精霊『カチナ』の人形とを合わせたシリーズです。日本の民芸品とネイティブアメリカンの人形とを自身のフィルターを通して、新しく生み出したのが《kokena》です」。
会場で、バラエティに富んだ愛らしい姿のコケナをぜひ見比べてほしい。

 苫米地は自身の欲しいものを、制作しているという。
「例えばこの《Buffalo(バッファロー)》は、欲しいけれどなかなか買うことができない。その隣のターコイズ色のオブジェも同様に、本物のターコイズでこれほど大きいものはないので、『それなら自分で作ってしまおう!』と、作品にしました」。
他にも、スニーカーマニアでもある苫米地ならではの作品、《Revamic スニーカー》も目を引く。

 「これは、『revive』(よみがえる)と『ceramic』(陶器)を掛け合わせて『Revamic』(リバミック)と名付けたシリーズの作品です。SDGsアートといいますか、使わなくなった土や釉薬を混ぜて作ります。表面のところどころにあるへこみは、釉薬のかたまりが埋まっていた部分で、焼いた時に溶けた釉薬が流れ出ることで隙間ができるのです。窯の中でどのように変化するのか予測できないところが面白く、一つとして同じものがありません」。

 オブジェの肌の部分は、土の中に混ざり込んだ釉薬の質感が美しく、多彩な表情は見飽きることがない。
「形は招き猫やダルマなど、誰もが知るモチーフを取り入れています。身近なものの方がイメージしやすく、アートを身近に感じていただけると思うからです。私が考える、作品に関する三つの要素がありまして、まずは技術、そしてアイデア、最後に偶然・自然という自分ではどうすることもできない要素。この三つが重なると良い作品になると思っています。このリバミックシリーズは、偶然・自然の要素が突き抜けたものですね」。

 他に、会場では苫米地が陶磁器商社時代から制作していた、モノトーンのシリーズをアレンジした作品なども見ることができる。

【会期】8月8日(金)〜8月24日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00

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