六本木ヒルズ A/Dギャラリー

重なり合う線とキャラクターを通して、人の内面に潜む感情の揺らぎを描き出すアーティスト・中風森滋の個展が、六本木ヒルズ A/Dギャラリーにて開催。
印象的な本展のタイトル「歩く赤るみの女王」は、鏡の国のアリスに出てくる「赤の女王」からインスピレーションを得ているという。
「私はよく頭の中で言葉遊びをするのですが、赤から『明るい、明るみ(赤るみ)』と連想しました。『明るさ』は現代ではスマホの光、昔のたいまつの光など、あらゆるものを照らし出します。でも物事の善悪を問わず、あらゆるものを明るみに出してしまう。時には一人でいたい、照らされたくない時もあります。また、赤の女王の有名なセリフ『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない』からの連想でもあります。走るとは、何かをずっとし続けなくてはならない。でもそれは私のやりたいことの真逆で、むしろゆったりとしていたい。例えば一枚の絵でも、ぱっとみて終わるのではなく、没入できるような絵を描きたい。そういう想いから、赤(るみ)の女王が(走らずに)歩くための絵を描きたいと、タイトルにしました」。
心理学用語でも使われる《imago》や、よく見るとキャラクターの中に鶯が描かれている《鶯》など、作品名の一つひとつが面白く哲学的だ。
丁寧に考えながら話す中風は、生物学への関心の高さなど表現の源泉の深さがうかがえる。
本展の作品は、全体的に色が明るく楽しい気持ちになるような作品が多い。
「私は『場』に影響を受けることが多く、本展はギャラリーのポップな作品が合いそうな雰囲気が本展での色使いに現れていると思います。でも、展覧会ごとにテーマを変えるということはなく、連続したテーマを進展させ続けている感じです」。
一貫して描くというテーマを尋ねると、
「『線とキャラクター』をモチーフに絵を描いています。なぜこのテーマを選んだのかというと、他は描けなかったからです。その背景には、現代社会に情報が溢れすぎていて、その膨大な情報量に私はついていけないと感じることがあります。一方で、キャラクターは二次元の存在であり、情報が圧縮されているように感じます。むしろ、現実よりも漫画やキャラクターの方が、私にとって豊かな情報を受け取れるのです。だからこそ、キャラクターと線を起点に世界を広げていくイメージで描いているのだと思います。そして、その世界をより広げていくための「フラグ」として、個展などで作品を発表しています」。
中風は、東京藝術大学在学中に「これは何だろう?」と思いながらキャラクターを描き、それを還元していくと線が残ったという。
「そこで私にとってキャラクターとは線であると思うようになりました。形が見えるかどうかは関係なく、ただの抽象的な線も私のキャラクターなのです」。
身体がもっている記憶がふと出てくるように手が覚えているものを描くような側面があると話す中風の描く線は、キャンバスの中で踊るかのように軽やかで美しい。最終的には一発勝負で描くそうだが、そこに至るまで何回も描き直し重ねて描くそうなので、よく見ると絵の中に創作の過程が見えるのも、隠れたキャラクターを探すようで面白い。
また線の流れをいかし自身が納得いく表現を実現するために、キャンバスの布を裏表逆に張ったり目の細かい布を試したりなど、線をきれいに見せることを妥協せずに追求し続けている。
本展会場の壁一面には、中風の創作過程には欠かせないドローイング作品が展示されている。
「まずドローイングを描いてから油絵を描き始めます。毎朝アトリエに入り、フラットでまっさらな状態から始めるので、ドローイングを描きながら手の感覚を思い出し、心が整ったら油絵に取りかかります」。
カラフルで可愛らしいキャラクターが並ぶドローイング作品も本展の見どころの一つ、ぜひじっくりと観てお気に入りを探してほしい。
【会期】11月21日(金)〜12月7日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00
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