NEGORO 根来 — 赤と黒のうるし

サントリー美術館

  • 2025/11/21(金)
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NEGORO 根来 — 赤と黒のうるし

 中世に大寺院として栄華を極めた根來寺(ねごろじ)で作られた朱漆器は、その高い品質で「根来塗」と称され特別なものとされてきた。古代から現代まで続く朱漆器の名品・名宝が一堂に集まる展覧会が開催。
現代においても多くの国内外のコレクターの心をとらえる魅力を、存分に楽しむことができる。

 会場に足を踏み入れると、黒漆に朱漆を重ねた独特の色調が静かに輝き、長い時を経てなお力強い存在感を放っている。根来塗は、紀州・根來寺(和歌山県)を起源とし、神仏に捧げられる権力の象徴でもあった。
 時を重ね、朱の漆が摩耗することによって現れる黒い漆との調和が生み出す「独自の美」は、同じものが二つとない。

 「第1章 根来の源泉」では、重要文化財《楯》や国宝《唐櫃(熊野速玉大社古神宝類のうち)》など、赤と黒の漆工品の中から「根来」という呼び名が定着する前の時代の名品を中心に観ることができ、その大きさや荘厳さに圧倒される。
 現在熊野速玉大社では十二合の唐櫃が確認されているが、実は十四合あったという説もあり、そのうちの一合が近年発見され、本展で国宝《唐櫃(熊野速玉大社古神宝類のうち)》と一緒に展示されている。よく似た佇まいの二つの唐櫃は見逃せない作品だ。

 続く「第2章 根来とその周辺」では、「根来」の名の由来となった根來寺について深掘りし、時代を追うごとに宗教儀礼から日常の場にまで広がった様子を観ることができる。
豊臣秀吉によって焼き討ちされる天正13年(1585)直前の最盛期には山内に数千もの塔頭が軒を連ね、当時最も栄華を誇った寺院の一つであり、「根来」という呼称は、この根來寺で朱漆塗漆器を生産したという伝承に基づいている。
 寺院資料や近年の「根来寺坊院跡」の発掘調査で根來寺及び周辺の様子を垣間見ることができ、見ごたえのある章となっている。
同時代の各地で作られた「根来」も展示されており、朱が摩耗し黒がのぞく表面に刻まれた時間の跡から神事や日常で使われた様をうかがうことができ、祈りと生活の重なりを語りかけてくるようだ。

 最後の「第3章 根来回帰と新境地」では、かつて白洲正子、松永耳庵、黒澤明などの著名人たちが日常の生活の中で愛した作品が展示され、根來寺への憧憬や追慕の念を抱くための役割だけでなく、愛でるべき美術工芸品として位置付けられるようになった「根来」が展開されている。
 根来のコレクターとしても有名で、自身の映画にも根来を登場させたり、自宅で客人をもてなす時に愛蔵品を使ったりしたという黒澤明監督の旧所蔵品も展示されている。

 また、木工芸の分野において初となる重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された黒田辰秋が根来を研究し、自身で手がけた作品《根来塗平棗》は、刷毛目のないつるりした質感が印象的で、黒田にとっての根来塗とは何かをひも解く上で重要な作品となる。

 展示の最後を飾るのは、現代美術家・杉本博司による根来塗の再解釈作品《瑠璃の浄土》(神奈川・小田原文化財団)だ。
箱の部分は室町時代の経典を納めるための経箱が使われており、中には古代の墳墓から発見された出土品のガラス玉が敷き詰められている。照明により青白く放つ光は、根来の赤と黒に新たな命を吹き込み、その時を超えた美しさに見とれてしまう。

 静謐な展示空間で、朱と黒の重なりに宿る祈りの記憶を辿るひとときをゆっくりと楽しみたい。

【会期】2025年11月22日(土)〜2026年1月12日(月・祝) ※会期中展示替えあり
【休館日】火曜、12月30日(火)〜1月1日(木・祝)(1月6日は18:00まで開館)
【時間】10:00〜18:00 (金曜および1月10日は20:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
【画像】「NEGORO 根来 — 赤と黒のうるし」展示風景
左:重要文化財 楯 嘉元3年(1305年) 奈良・大神神社所蔵 【前期・後期で入替あり】 中:唐櫃 個人蔵/子守宮伝来 【通期展示】 右:国宝 唐櫃(熊野速玉大社古神宝類のうち)明徳元年(1390年) 和歌山・熊野速玉大社所蔵 【通期展示】

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