森美術館

日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として、森美術館が3年に一度開催するシリーズ展「六本木クロッシング」が開会した。
第8回目となる今回は、国際的に活躍するアジアのゲストキュレーター2名を迎え、『時間』をテーマに、日本に拠点を置く海外の作家や海外在住の日本人作家など、アーティスト21組の多様な作品を紹介し、日本の現代アートを多角的に見つめる。
最初の展示室では、「様々な時間のスケール」をキーワードに、個人的な経験と普遍的な事柄の関係性を探求する作品が並ぶ。
ガラスの器に花がいけてあるような作品《モニュメント(再生)》(ケリー・アカシ)は、日系アメリカ人強制収容所に収容された家族の記憶を題材に、個人的な体験が語り継がれ長い時間の流れに組み込まれることで、普遍的な意味をもつことを示している。
また、「梅華皮」や「石爆」などの伝統的な陶芸の技術を独創的に表現する、桑田卓郎のダイナミックな作品も見ごたえがある。
続く「時間を感じる」の章では、本展のメインビジュアルにピックアップされている、シャボン玉を用いた大型インスタレーション《水中の月》(A.A.Murakami)が印象的だ。しずくのように落ちて流れる白いシャボン玉が滑るように水面を流れていく空間は、幻想的で時が経つのを忘れそうだが、AIが記述したオペレーティングシステムによって動作しているという点も面白い。
東京の景色を一望できる展示室で観ることができるのは和田礼治郎のブランデーを用いた立体作品《MITTAG》は、摘み取られ命を失った果実が蒸留のプロセスを経て再び命を得る「生から死、そして再生」や「永遠と刹那」などの時間概念を探求している。琥珀色の液体は窓の外の地平線と合う高さに調整されているので、晴れた日にはぜひ眺望と一緒に楽しんでほしい。
会場を進むと、飛行機の形をした巨大な作品が見えてくる。「ともにある時間」の章で展示されている《フラジャイル・ギフト:隼の凧》(北澤潤)は、日本軍がジャワ侵攻で使用した戦闘機「隼」をその後インドネシア軍が独立戦争で再利用したという史実に着想を得て、インドネシアの凧職人の手で隼を蘇らせるというプロジェクトだ。
最後の章では、世界のあらゆる存在が独自の「生命のリズム」を刻むことで時間が流れていることを表現した作品が展開されている。
マヤ・ワタナベの、融解する永久凍土に現れたマンモスの死骸を映し出し、人類史を超える時間的スケールを示す映像作品は、その悠久な時間に思いを巡らせ不思議な気持ちになってくる。
AIを用いた人生のシュミレーションを通じて人生の選択の不可逆性を示す、木原共の作品《あなたをプレイするのはなに?—ありうる人生たちのゲーム》は、時間があればぜひ実際に操作して楽しんでほしい。
絵画、彫刻、映像はもとより、工芸、手芸やZINE(ジン)、さらにはコミュニティプロジェクトなど、100点を超える多様な作品で、日本のアートの現在地を感じてみてはいかがだろうか。
【会期】2025年12月3日(水)〜2026年3月29日(日)※会期中無休
【時間】10:00〜22:00(火曜は17:00まで) ※ただし12月8日(月)は17:00まで、12月30日(火)は22:00まで ※入場は閉館の30分前まで
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