コバヤシ麻衣子:ふわり、ひとり、ひとり。

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/12/12(金)
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コバヤシ麻衣子:ふわり、ひとり、ひとり。

 名を持たない独自のキャラクター「いきもの」を描き、感情のゆらぎや気配を描く作家・コバヤシ麻衣子の個展が開催中。

 コバヤシが描き続けている「いきもの」たちは、大人でも子供でもなく、人間でも動物でもない。「いきもの」たちの表情には、どことなく寂しさを感じるのだが
「そのように感じられる方が多いのですが、実は寂しさや悲しさなどを特に表現しようとしているわけではなく、描いていく中で通り過ぎていく様々な思いや感情が相まって、寂しさや悲しさも含んだような表情にたどり着いているのだと思います。観る人によっては『最初は悲しそうに感じたけれど、ずっと見ていると笑っているようにも見えます』という方もいらっしゃいます。私たちがたとえば一人で道を歩いている時など、満面の笑顔の人ってそうはいないですし、こういう(絵の中のいきものたちのような)顔をしているのではないかなあと。一見、悲しそうでも実は…と、いろいろな方向に解釈が広がるような表情を探し、少し上げれば笑っているようにも見えるなど、微妙な変化で変わる線を探りながら描いています」。

 何か特定の感情に支配されているわけではないという「いきもの」たちを改めて見ると、見方によって笑顔にも悲しむ顔にも見えるという能面を思い出した。「いきもの」は、私たちの内なる感情を映し出す鏡のような存在なのかもしれない。

 個性的な本展のタイトルは、イギリスの大学院で絵を学んだり海外に滞在し作品を発表したりと、軽やかに生きてきたコバヤシが、これまでの自分を振り返った時に気になったことがベースとなっているそうだ。
「展覧会のタイトルは私にとって毎回重要なもので、今自分の中で気になることや感じることをテーマに、作品世界へのヒントとなるようなものを考えています。ふわりと漂うようにいろいろな場所で生き、たくさんの人と会って影響を受けてきたけれど、そういう場所では常に私は外側から来ている存在で、それぞれのコミュニティの中にいてもどこにも所属していない感覚を持つことが多かったんです。日常の中でもこういう場面が多々あって、そこで私が感じているような違和感を今どきの人も感じているのだろうか、などと思いタイトルをつけました」。

 本展ではコバヤシの新しい表現も生まれたという。
「体がとけて無くなっているといいますか、背景になじんで『いきもの』の一部が描かれていない。それでも絵として成立させられるのかという、チャレンジ作品です」。
 これまではただの「いきもの」だったものが、「この『いきもの』っていったいどこに存在するのだろう」と考えた時に、いろいろなものの境界線上にいるのかな、と自分の内側と外側の間(あわい)で漂っている存在として“リミナル・クリーチャー(Liminal Creature)”と名付けたそうだ。

 きっかけは、SNSを通じて知り合った、シンガーソングライターとして活動する海外の友人が、コバヤシのスタジオを訪れた際、
「『麻衣子、リミナルって言葉知っている?中間地点のような、コンセプチュアルな意味なんだけど、麻衣子の絵はそれに通じる感じなんだよね』と言われたことを思い出し、『これだ!』と。“リミナル・クリーチャー(Liminal Creature)”境界上のいきもの・存在と定義づけたことで、今後が見えた気がしました」。

 会場では、キャンバスの上に和紙を張った独自のマチエールやドローイングベースの作品など、いろいろな表現による「いきもの」を観ることができる。
また、今後展開するであろう「境界の存在(リミナル・クリーチャー)」たちの表現も楽しみだ。

【会期】2025年12月12日(金)〜2026年1月4日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00 ※ただし12月31日(水)〜2026年1月3日(土)は12:00〜19:00

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