禪フォトギャラリー(六本木6-6-9 ピラミデ2F)
国内外で個展を開催し、精力的に活動している写真家・藤原敦の新刊写真集『櫻川』の刊行を記念し、選りすぐりのカラー写真18点を展示した個展が開催中。
世界中がコロナ禍に見舞われていたころ、北関東のとあるホテルで長期滞在することになった藤原は、ホテルの横に流れていた川を撮り始めた。ある時、藤原はこの地が能の『桜川』の舞台であることを知る。
能の『桜川』は、子どもと離れ離れになった母が狂乱して子を尋ね歩く、子別れの狂女物のひとつ。常陸国の桜川にたどり着いた狂女は、わが子の名にちなんだ桜の花を粗末にできないと川面に散る桜の花びらを網で掬い、流すまいと狂う有様を見せる。
藤原の『櫻川』は、桜川の舞台の地の現在をありのままに写し取っている。美しさとうら寂しさが共存する桜並木、打ちあがる花火とそれを見上げる人々の後ろ姿、現在も営業しているのか定かでない風俗店の外観など、淡々とした中に静かだが力強い生命力を感じる。そして展示を締めくくるのは、指に桜の花びらがまるで指輪のように乗る一枚。散ったばかりの命が消えようとしている花びらが、生命力のある手に乗ることで対比が際立つ。
それは「聖なるものと俗なるものとが入り交じるこの世界は、桜が散るようにつねならぬものである。だからこそ写真に留める価値がある。」という藤原の無常観と通じる。
また、散って川の流れに身を任せる花が無常のありさまを表す、能の桜川の世界ともリンクするのだ。
これまでモノクロで表現してきた藤原の、カラー作品が観られる個展は今回が初となる。「モノクロの方がリアリティがあり、カラーは少し突き放した感じとなる。モノクロで桜を撮ると、ドラマティックな写真となる、だが今回はカラーの方が、桜が落ちて生命の尽きる姿などが表現できたと思う。」
見たままに近いカラーの方がリアルであると思っていたので、藤原の話を聞いて驚いたが、タイミングが合えばアーティストの話を聞くことができ、新しい発見があることも、ギャラリーを訪れる醍醐味であろう。
禪フォトギャラリーでは2015年「詩人の島」以来9年ぶり、2回目の個展となる藤原の個展。「つねならぬ」世界感を観に足を運んでほしい。
【会期】9月27日(金)〜10月19日(土)
【休廊日】日月祝
【時間】12:00〜19:00
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