タカ・イシイギャラリー 六本木(六本木6-5-24 complex665 3F)
タカ・イシイギャラリーで2回目となる、サイトウマコトの個展が開催中。本展では新作の抽象画6点が展示されている。
サイトウは、自身の創作意欲を掻き立てる「顔力」を持つ人物を主題に、コンピューター上で解体・再構成した網点状の設計図を作り、このデジタルデータを受肉させるかのようにキャンバス上に絵筆で描くスタイルで知られ、作品はヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)、ニューヨーク近代美術館、金沢21世紀美術館、東京国立近代美術館など、国内外の多くの美術館に収蔵されている。
本展で展示される作品は、これまでのものとは大きく試みが異なる抽象絵画だ。
ある日、サイトウがテレビで目にしたフィンランドの画家・小説家であるトーベ・ヤンソンのドキュメンタリーと、トロールやゴブリンが登場する北欧童話を娘に繰り返し読み聞かせた懐かしい記憶に触発され、森の精霊達が誕生する様子が脳裏に浮かんだことから生まれた新作となる。
北欧の深い森を思わせる薄暗い背景に、高度に抽象化された色と形で多様なトロールとゴブリンたちが描かれている。どこか寂し気だが、ひんやりと澄んだ空気が流れてくるような清らかさと、静かだが力強くうごめくような生命力が感じられる。
全ての作品で、ほぼ同じ色が使われているが、生命体が集っているかのように明るく楽し気に見える「杜の譜」と、深い森か水辺に見える背景に抽象的に描かれた生命体が息づく「浮遊するトロール」では、全く違った雰囲気があり、見比べてみるのも楽しい。
遠くから見ると単色に見える部分も、近づいて見ると絵具がひび割れた下から別の色がのぞいていたり、微細な色が蠢くように隠れていたりと、マクロとミクロの視点では見える世界が違ってくる。トロールがかくれんぼしているような色の交わりや、ゴブリンがいたずらしながら通り過ぎた跡のようなマチエールを楽しみながら観るのも良いだろう。
また、ギャラリーを訪れた時刻は日が差し、きらきらと見えた色も、夜になると北欧の森のように静寂をまとって見えるという。また別の時間に訪れて、印象の違いを楽しみたい。
設計図を基に膨大な時間をかけ緻密に描かれるこれまでの作品と対照的に、本展では画面上に胚を落とし、生まれたものが自然に成長する様をサイトウ自身が楽しみながら描いたように思われる。この展覧会がサイトウの作風が変わるきっかけになるのか、今後どのような作品を観ることができるのか、これからも注目したい。
【会期】11月16日(土)〜12月14日(土)
【休廊日】日月祝
【時間】12:00〜19:00
【画像】サイトウマコト 「トーべ・ヤンソンのドキュメンタリーを観た後で。−杜(もり)の譜(うた)−」 展示風景 タカ・イシイギャラリー 六本木 2024年11月16日 - 12月14日 撮影: 橋健治
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