21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3(赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン)
愛媛県西予市(せいよし)で半世紀以上もの間、しめ縄職人として活動する、上甲 清(じょうこう きよし)を紹介する企画展が開催中。
上甲氏は、しめ縄専用の稲を自ら栽培して、田植えから稲刈りまで丹精を込めて行う。こだわり抜いて出来上がった藁と手を擦り合わせながら、一つひとつ力を込めて綯(な)っていく。
健康や平和、五穀豊穣の祈りを込め、生み出された上甲氏のしめ縄作品は、年末になると県内外から、中には数時間かけて求めに来る人もいる。また、全国各地の民藝店やセレクトショップでも高い人気を誇り、販売開始後すぐに品切れとなることも多い。
上甲氏の営みを、より多くの人に知ってもらいたいという思いのもと、孫の上甲智香さんが立ち上げた「孫プロジェクト」は、2021年に活動を開始。智香さんは祖父とともに、材料作りから制作のサポートにも携わる。
本展は「祖父が大切にしてきた藁文化を伝えたい。しめ縄づくりはもちろん、藁文化もまとめて残したい」という智香さんの想いに共感したMountain Morningが、プロジェクトの紹介と作品販売に加えて、田植えや製作風景の写真・映像展示、スタイリングを織り交ぜた空間演出を通し、広く藁文化に触れ、体験できる場をつくり上げた。
会場内の作業場を再現した空間で、上甲氏は藁を選び、擦り合わせ、足で抑え体全体を大きく動かしながら、しめ縄を制作する様子を実演。綯いながら丁寧に解説をする上甲氏。優しい笑顔と人柄にすっかり魅了され、話に聞き入ってしまう。彼のしめ縄を皆が欲しがる理由がよくわかった。その美しさ、技術、オリジナリティだけではなく、手にすると幸せな気持ちになるのだ。
しめ縄を作る藁は、稲穂が出る前に刈り取ったものを使う。しめ縄づくりの余分な手間がかからず、見た目も美しく、全く異なる仕上がりになるそうだ。
「5月上旬に植えたものを7月の後半に刈り、水につけ肥料を与えながら9月末まで置く。本格的にしめ縄を綯うのは10月からです」。おそらく全国で他にないというこのつくり方は、30代後半ぐらいから長年稲作を行ってきた経験上編み出したものだそう。しめ縄の輪の中心にある、相撲の土俵上の揚巻のような結び目は「宝結び」と呼ばれる上甲氏のオリジナル。宝結びの先には白・黒どちらかの稲穂が豊かにさがっており、新しい年を迎えるにふさわしい。
だが、「時代の流れで稲作は完全に機械化している。このような藁を確保するのは今後不可能になってしまう。おそらくもう5年たったらむずかしいと思う」と上甲氏は語る。
トークショーでは、Mountain Morningを率いる作原文子氏が
「(作品にスポットがあたりがちだが)出来上がった作品だけを見てもわからない。田植えに始まり、育てるところからの長い工程を、ぜひ会場のムービーも合わせて観てほしい。綯う作業に至るまでに、藁を乾燥させる作業ひとつとっても、蒸し風呂のようなところで何度も藁を裏返し、ほぼ一人で、手作業で、すべて行っているところも本当に驚きました。それだけの時間と思いをかけて作られていることを、ぜひ多くの人に見てもらいたい」と語った。
藁文化を将来につなぎたいと、2002年に「宇和わらぐろの会」を発足した上甲氏と、会員の3名による大しめ縄の最終仕上げの実演も行われた。歳神様を迎える縁起物なので、新しい年を迎えるにあたり、ぜひ会場で見ておきたい。
「私のしめ縄づくりが少しづつ全国に行きわたり、今回展示を開催する運びとなった。多くの人に知ってもらうための一つのきっかけとして、このような機会があればと夢にみていましたが、実現して本当に感謝しています。おそらく私にとって、またとないことです」。
昔、野球をやっていたという上甲氏の今の夢は、「大谷翔平選手に私のしめ縄をプレゼントすることです」。
手にした人の幸せを祈りながら作られる上甲氏のしめ縄が、偉大な選手の手にわたることを願い、会場を後にした。
【会期】12月14日(土)〜12月26日(木)
【休館日】会期中無休
【時間】10:00〜19:00
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