ペロタン東京 (六本木6-6-9 ピラミデ1F)
ドイツ人アーティスト、グレゴール・ヒルデブラントの日本初となる個展が開催中。
タイトルの「…それでも4月に桜は咲く」は、ドイツのシンガーソングライターであるコンスタンティン・ヴェッカーが1980年代初頭に発表した歌の一節にも基づく。
曲調は、既成概念にとらわれない思考や想像の世界に身をゆだねることを阻む苦悩から、ピアノの旋律と共に曲は一変し、桜が花開き、変化と創造、そして新しい夢への窓が開かれるように移り変わる。
ヒルデブラントの作品イメージの多くは、音楽との緊密な対話、つまり強調された存在感と顕著な不在という均衡状態のなかで生み出されている。音楽を単純に図解したり、直接的に視覚的な要素に置き換えたりするのではなく、カセットテープやレコードなど、音楽が記録される素材そのものを用いて、絵画、インスタレーション、彫刻等を制作している。素材がもつ物質性、質感、色を存分に活かしつつ、音楽自体を暗示する要素を忍ばせることもある。
ヒルデブラントのトレードマークともいえる制作法の一つに、部分的に接着剤を塗ったキャンバスにカセットのテープを一本ずつ貼り付け、それらを剥がしていくと、接着した箇所にのみテープの磁性層が残るというものがある。それがいわばネガのイメージとなり、剥がしたテープを別のキャンバスに貼り付けると、ネガポジが反転したイメージが出来上がる。
本展で展開されている、《Es ist Juli》(今は7月)(2024年)と《Sommernächte fliegen ohne Hast》(夏夜はゆっくりと過ぎていく)(2024年)の二つの作品でこの手法が見られるので、見比べてみると面白い。
また、奥のギャラリーにある赤いテープ・ペインティングのシリーズは、カセットテープに音を記録する磁気テープ部分の前についている赤いリーダーテープを用いて作られた。各カセットに使われるリーダーテープは、わずか数センチであり、赤いものは珍しい。どれだけ年月をかけて集められ、作品になったのかと驚かずにはいられない。
他にも、カセットテープのケースを並べてイメージを描いたものや、ヒルデブラントがもつレコードレーベル「GRZEGORZKI RECORDS」から過去に出したレコードを圧縮・成形した円柱型作品で、彼がプレゼントされたバスローブの色と模様からインスピレーションを得た《Bonjour Monsieur Grzegorzki》(こんにちは、グジェグシュキさん)(2025年)など、ユニークな手法、素材が用いられた新作ばかりが会場を彩っている。
【会期】4月3日(木)〜6月21日(土)
【休廊日】日・月曜日、祝日
【開廊時間】11:00〜19:00
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。