志村観行展―賢者の愉しみ

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/5/16(金)
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志村観行展―賢者の愉しみ

 伝説上の獣、怪物、猛獣、草食動物、鳥類、爬虫類など様々な生き物が集う水辺のような楽園の旅をコンセプトに作陶を行う陶芸家、志村観行の個展が開催中。

 本展では普段使いの器、オブジェ、ランプなどの新作を観ることができ、会場に入ると温かみのあるランプの光と落ち着いた深い色味の作品たちが、ゆったりとした雰囲気を醸し出している。

 本展開催にあたって発表された作家コメントは、以下となる。
『変容と多様性、謎多く、考察を要するが故に 「賢者の愉しみ」と喩えられたカメレオン。 賢者達が愛でるソレは姿を変えて 六本木ジャングルに棲息している。 志村観行』
とても詩的で哲学的、どこか謎めいていると感じたが、制作のインスピレーションをどのように得るのだろうか。

 「10代のころから読んでいる、本による影響が大きいですね。作品を作ろうとする時に浮かぶのは、SFやブラックユーモアの作品。海外のものが多かったのですが、日本の作家だと内田百閧竦鏡花など、ちょっと不思議で幻想的な世界観のものです。僕の作品は、ダークな世界を表現することが根本にあります。それは、幼少期からの読書体験を形にしているからでしょう」。
 自身の作品の根底にあるものを、観る人にあえて説明するわけではないそうだが、観た人の感性を刺激し、作品世界をくみ取ってもらえたように感じることがあるという。それが手に取った人にとっての一つの体験となることが、うれしいそうだ。

 「開かずの蔵とか開かずの間とか、薄暗い中に何か不思議なものが潜んでいるような、そんな感じが充満しているといいなあ、と思って表現しています」と語る志村の作品は、本展のキービジュアルとなるカメレオンの作品のほか、あらゆる作品にドラゴンや鳥、どくろなどのモチーフが繰り返し表れ、独自の世界を築いている。そのほか、招き猫や富士山などの吉祥モチーフが現れることも多く、ダークな世界の中にどこかほのぼのとしたユーモアも見え隠れする。

 どの作品も細かいところまで表現されており、大きな作品になるとその手間のかけかたに、「これほどまで?」と驚く。
一見レトロな風合いに見える色は、まず一色を表面に塗り、さらに上に別の色をのせて塗りながら色を混ぜ、自分の色をつくり出す。また、色を乗せる部分も小型の刀で切り出して区画をつくり塗分ける。「(色を)そのまま使うと、決まった色になってしまい個性がない」と、志村は涼し気に語るが、自身の世界を表現するためには一切の妥協がないのだ。
一点ごとに異なる絵柄は、陶器の絵付けというより、絵画を観るような気持ちになる。

 これだけ手がかけれられた作品が並ぶ様子を見ると、会場内にあるたくさんの作品をつくるのは大変なのでは、とたずねると
「そうですね。以前よりも一年あたりに開催する個展の開催数を減らし、できるだけ準備期間を長く設けるようにしています」。それでも、国内外から問い合わせが多く、帰国する最終日に個展に来る人や日本に旅する友人に購入を頼む人、個展で作品に出合い、伊豆高原の工房まで訪ねてくるリピーターの顧客も多いそうだ。

 取材当日の会場では、海外からの訪問客が「あなたの作品はとってもアメージング!」と、皿を数点購入。また、長年の顧客らしい女性は、じっくりと作品の絵を見ながら、気に入ったカップを購入していた。
 ゆっくりと会場の世界観を楽しみながら、描かれている世界やデザインを見比べ、感性にピッタリくる一品を見つけるのも楽しいだろう。

【会期】5月16日(金)〜6月1日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00

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