千葉正也 「絵画とiPS心筋細胞シート」

シュウゴアーツ(六本木6-5-24 complex665 2F)

  • 2025/7/3(木)
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千葉正也 「絵画とiPS心筋細胞シート」

 自身で制作したモチーフを繰り返して用いたり、取り巻く環境や過去の出来事から選び取ったイメージをキャンバス上に再現する画家、千葉正也の個展が開催中。
本展では絵画15点とドローイング14点を観ることができ、ほぼ全ての作品が本展で初披露となる。

 千葉は、実際に目に見える物を静物画として描いているが、絵の中に描かれている自作のオブジェやその配置などの世界観は抽象的であり、描かれているものの質感や光の当たり方などは写実的に見えるなど、相反する表現で不思議な気持ちになる作品は、その世界をもっと見たい感じたいと思わずにはいられない。

 本展の多くの作品に共通しているものは、木の棒がクロスしているモチーフだ。
これは、私たちが生きている世界にたくさんある、分子や重力、惑星同士の引力などの微細な世界の構造を表し、千葉は「基本的な構造物」と呼んでいる。この世の中には抽象的なものがたくさんあるが、それを物質や現実のオブジェで表した時に生じる矛盾を描いているそうだ。

 それぞれの絵画の中にある「基本的な構造物」には、球体のオブジェが付いているが、その色や大きさ、配置、素材など、それぞれ異なると明確にわかるほど、影のつき方や光の当たり方、素材の表現が見事だ。実はこの球体の位置や角度の書き分けがものすごく難しく、こだわった点だそう。

 背景のオブジェは、人形や木のような形に見えるものもあるが、抽象的なモチーフを一つひとつ作り上げてから具象的な絵が描かれているという制作過程が面白く、まるで絵画を通してインスタレーションで表現された世界を見ているようだ。

 これまでは、絵の中でオブジェどうしが関わり合ってその世界が完結していたが、今回は三次元的な展開があり、絵の中で起こっているオブジェどうしの関係と、絵そのものと物との関係という、少し複雑な構造関係へと変化している。

 本展で披露されている絵画と物を組み合わせた一連の作品群は、『絵画と野菜』という絵画と野菜が同じ空間に配置されるシリーズから展開した。『絵画と野菜』シリーズは、2021年にウィーンのギマレスで予定されていた展覧会の構想を起点としている。
会場は、かつて馬小屋だった空間を改装した展示スペースであったため、馬の餌である野菜と絵画を同じ空間に配置するというプランをアトリエで試みた際、千葉は、恣意的に結びつけられた両者のあいだに「野菜が絵画を助け、補っているような独特の関係性」があることに気がついた。

 本展の作品では、《絵画と野菜》シリーズ3点のほか、《絵画と杖、最安の酒(化粧台)》では、絵画の下にペットボトルの酒2点とステッキが置かれている。また、《絵画と口笛の音、ショパン作 子守唄(枯れた草原の夕方)》では、一瞬『何も置いていないの?』と思うが、30分ごとに口笛でショパンの子守唄が聞こえてくるなど、新しい鑑賞体験ができる当シリーズの作品は、観る者に絵画をより身近な存在と感じさせてくれるだろう。

 また、作品によって、淡い色合いでふんわりと描かれたものから、クリアに描かれたもの、印象派の絵のようなタッチのものなど、同じシリーズでも意図的に描き分けられていて、作品ごとに見どころがある。
《絵画と野菜 #20(スコップ、土の匂い)》、《絵画とエッセイ(宇宙の寂しさ)》、《絵画と1メートル四方の青(霧、朝のニュアンス)》など、独自のタイトルと絵の中に表現された世界を見比べ、作品ごとに異なる描き方をじっくりと楽しんでほしい。

【会期】6月28日(土)〜8月2日(土)
【休廊日】日月祝
【時間】11:00〜18:00
【画像】千葉正也 「絵画とiPS心筋細胞シート」展示風景, シュウゴアーツ, 2025 Copyright the artist, Courtesy of ShugoArts

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