ジュリアン・シャリエール「Midnight Zone」(ミッドナイト・ゾーン)

ペロタン東京 (六本木6-6-9 ピラミデ1F)

  • 2025/7/9(水)
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ジュリアン・シャリエール「Midnight Zone」(ミッドナイト・ゾーン)

 ベルリンを拠点とするフランス系スイス人アーティスト、ジュリアン・シャリエールの個展が開催中。
パフォーマンス、彫刻、写真を駆使するシャリエールのプロジェクトの多くは、工業資源の採掘場所や火山のカルデラ、人里離れた氷原、核実験所といった場所でのフィールドワークを起点として展開される。

 本展のメインとなる映像作品のタイトル、《Midnight Zone》は海底1000メートル下から始まる太陽の光が到達できないほどの深い場所を指す。
この作品の制作にあたりシャリエールは、「私たち自身が深海に潜っていくような体験をつくり出したい、私たちの代わりに潜るアバターなようなものが必要」と考え、灯台に使われるフレネルレンズのレプリカを使い、海圧に耐えられるようにして撮影を開始。1000メートル下まで海底へ向かって進んでいく灯台の灯のような光の周りに海の生物が集まり、光を取り囲むようなイメージの撮影に成功した。

 海洋の深淵へと続く幻視的な旅のはじまりは、私たちがいつも見る海の風景だ。カメラはゆっくりと海の中を進み、少しづつ青が濃く光が少なくなっていく。海の層を進み続けるカメラは、やがて海の生き物たちの姿を捉えるようになり、魚や鮫の大群がひしめく中を進んでいく。
映像のクライマックスでは、光のまわりを渦巻くように泳ぐ魚たちが光を反射してきらきらと輝き、巨大な万華鏡のようにも見え、くらくらするほど美しかった。
やがて魚の姿も見えなくなっていき、その先には太陽の光を通さぬ『ミッドナイト・ゾーン』が待ちうける。

 「私の目となったカメラが1000メートルまでたどり着き、映像に残せたことが重要です。それにより、私たちが想像できるものが変わってくるのです。アートは、物事を理解することを手助けしてくれる乗り物のようなものだと思っています。科学的なデータで理解する方法もありますが、私たちが自分の中にしっかりと落としこんで理解するためには、文化的なつながりが必要だからです」。
と語るシャリエールがこの海を撮影した理由は、海底に眠る豊富な鉱物資源を狙う深海採掘企業などの存在だ。

 「海は全てつながっているので、採掘することで海中のあらゆる階層はもちろん、私たちが住んでいる地上にも影響が出るだろうと言われています。この海域を危機感を持って見つめると同時に、まだ採掘が始まっていないことに希望を持ち、何とか食い止めるという意味も含めて介入していきたいと思っています」。

 本作品は、本展のほかスイスの美術館で展示されるが、最初の上映はメキシコの海岸沿いで行われた。
「採掘が始まったら一番に影響が生じるであろう地域の一つですから、私の作品を通じて意識を高め、何が行われようとしているかを知ってもらいたい。作品を観てもらうだけではなく、人々の意識をアップデートできればと思っています」。
《Midnight Zone》は50分を超える作品であるが、ぜひ時間のある時に最後まで観て、これが失われるかもしれない現実に思いを馳せてみてほしい。

 他に本展会場の一番手前の部屋では、映像と連動した写真のほか、2種類の溶岩からできている彫刻作品《A Stone Dream of You》が展示されている。
ゴツゴツとしたベースの部分から、目のように黒く光る黒曜石の球体が輝いており、海の住人のようにも見える。
「海底には私たちの知らない世界が広がっていて、未知の海底に黒曜石の大きな黒い鏡が横たわっている。それは私たち自身を映す鏡かもしれないし、地球の別の世界や夢への入口かもしれない、という光景をイメージして制作しました」。

 また、中間の部屋に展示されている《Veils》は、サンゴ礁を題材としたフォトリトグラフィの作品だが、白化して死んだサンゴを砕いた顔料が使われている。作品の存在が喪失を際立たせるこの作品も、人間の侵入がもたらす結果を浮き彫りにする。

【会期】7月9日(水)〜8月30日(土)
【休廊日】日・月曜日、祝日
【開廊時間】11:00〜19:00

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