森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
「ムーミン」の小説の出版80周年を記念した展覧会が開催。
フィンランドのヘルシンキ市立美術館(HAM)の協力のもと、「ムーミン」の生みの親で、絵画、風刺画、漫画、絵本、小説など多方面に才能を発揮したアーティスト、トーベ・ヤンソン(1914〜2001年)の創作の世界を振り返る。
「ムーミン」の作者として有名なトーベ・ヤンソンだが、挿絵画家だった母と、彫刻家の父との芸術一家で生まれ育ち、若い頃から雑誌の挿絵で才能を発揮した。15歳の時にヤンソンの挿絵が初掲載された政治風刺雑誌『GARM(ガルム)』では、1943年頃には後のムーミントロールとなる「スノーク」が絵の中に小さく登場、戦時中には独裁者のイラストを表紙に描くなど、反戦の立場を表していた。
ヤンソンは絵画を描くことを望んでいたが、1945年に「ムーミン」小説の第一作である『小さなトロールと大きな洪水』を出版して以降、1950年代半ばには「ムーミン」が最初のブームを巻き起こし、世界中の人々に読まれるようになると、ヤンソンから絵画を描く時間を奪っていくようになったが、それでもなお自画像を含む人物画や静物画、病院や保育園などの公共施設の壁画など、精力的に絵画に取り組み、多彩な活躍をみせた。
本展最初の部屋では、トーベの初期の油彩画や第二次世界大戦前後の風刺画、日本ではまだあまり知られていない壁画も映像で紹介されているほか、実際に使用していた絵具や眼鏡などの愛用品も展示。
アウロラ病院小児病棟の壁画のためのコンペティション用スケッチ3点は、治療を受ける幼い患者たちの不安な気持ちを和らげるよう、明るい色使いで楽しそうなキャラクターたちが描かれており、観ているとやさしい気持ちになれる。
「ムーミン」シリーズだけではない、トーベの創作世界を体感してほしい。
続く展示室への入口は、ムーミンやしきをイメージしたドアに「The door is always open」と書かれている。
これはムーミンやしきがいつでも、だれでも受け入れるということを表し、「ムーミン」小説の出版80周年のテーマでもある。
ドアをくぐると、「ムーミン」の9冊の小説はもちろん、コミックスや絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』のキャラクタースケッチなどをみることができる。何回も書き直された跡や、余白に数ポーズが描かれ不採用となったものに斜線が引かれているなど、創作の足あとを見ることができて面白い。
展示室の壁には「大切なのは、自分のしたいことがなにかを、わかっていることだよ」「あまりだれかを崇拝すると、本物の自由はえられないんだぜ。そういうものなのさ」などの哲学的なスナフキンの言葉が書かれており、あらためて小説を読み返したくなった。
また、「ムーミン」シリーズには、戦争や災害の影響など、トーベの人生経験が見え隠れする。大人になって「ムーミン」シリーズの世界に触れても心に響くものがあり、子どもの頃とは違った楽しみ方ができる。
この夏、子どもから大人まで楽しめる「ムーミン」シリーズを、そしてトーベの芸術を包括的に味わってみてはいかがだろうか。
【会期】7月16日(水)〜9月17日(水)※会期中無休
【時間】10:00〜18:00(金・土曜日、祝前日は20:00まで)※土・日・祝日および平日のうち特定日(お盆期間の8月12日〜15日、会期最終週の平日9月16日、17日)は日時指定予約制 ※入館は閉館時間の30分前まで
【写真】「トーベとムーミン展〜とっておきのものを探しに〜」展示風景 ©Moomin Characters™ ©Tove Jansson Estate
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