Pace ギャラリー(麻布台ヒルズガーデンプラザA 1・2階)
ポップアートの巨匠、クレス・オルデンバーグの展覧会が開催中。
日常のあらゆるものを巨大化させた、ユニークな彫刻で知られるオルデンバーグの作品は、妻であり長年のコラボレーターでもあったコーシャ・ヴァン・ブリュッゲンと手がけた、のこぎりの大型彫刻《Saw,Sawing》が、東京国際展示場の屋外にて展示されているなど、日本でもおなじみだ。
東京では1996年以来、およそ29年ぶりの大規模な回顧展となる本展では、1960年代から2000年代半ばにかけて制作された彫刻や版画などを紹介する。
オルデンバーグの創作における多様性にフォーカスし、他に類をみない独自の世界観に浸りながら、日本文化との共鳴や接点を見出す機会となる。
展覧会のタイトルは、邦訳で「いろいろ」と名付けられているが、皆が見過ごしてしまうような日用品の中に美や意味を見出し、それらを芸術の対象として再構築してきた、オルデンバーグの姿勢を反映している。日常に埋もれている凡庸なあれこれを、愛情をこめて掬い上げ、アートとして命を吹き込んできたのだ。
本展は、PaceのCEOであるマーク・グリムシャーと、クレス・オルデンバーグの娘である、マーチャ・オルデンバーグによってキュレーションされたもので、メディア内覧会では、マーチャさんが本展の概要と作品について解説した。
日本で学び働いたこともあるというマーチャさんは、「Pace ギャラリーが日本にできるというニュースは、私にとってとてもエキサイティングなことでした。また、父は1970年の大阪万博のアメリカ館にて、作品《Giant Ice Bag》を発表しました。今年、再び大阪で万博が開催されていることで、私としては大きな輪がつながったような気持ちです。父の作品は、非常に大きなスケールの彫刻作品で知られていますが、本展では作品を制作するにあたって作られたモデルや、小さなサイズのものをご覧いただけるように構成しました。本展を観ることで、父がどのように作品をつくってきたか、お分かりいただけると思います。また小さい作品はより多くの人に観ていただきやすく、開かれたアートだと思っております」と語った。
会場1Fで見ることができる筆の形をした彫刻《Paint Torch mock up (Large)》の実物は、アメリカ・フィラデルフィアにあるビジュアルアートの学校に設置されており、筆先の部分は夜になるとあかりが灯り、あたりをやさしく照らす。
絵画を描くという行為を称えて設置されたこの彫刻の形は、マーチャさんの解説によると、アイススケートの選手の姿も取り入れているそうだ。これは、妻であるヴァン・ブリュッゲンの出身地、オランダではアイススケートが盛んであることをヒントとし、筆先の絵具の色もオランダをイメージしたオレンジを採用している。
このようなモデル作品は、オルデンバーグ邸の中に日常的に置いてあったそうで、《Paint Torch mock up (Large)》には小さな傷もある。このような日常生活の中で親しまれ、家族の歴史も表しているような作品の姿を観ることができることも、本展の醍醐味であろう。
また、彩色された段ボール彫刻《NYCプレッツェル》(1994年)の複製約60点が、ギャラリー入口付近に設置された自動販売機のショーケースに展示されている。これは、日本では戦後、大量生産によって工業製品がたくさんつくられ、多くの人が手に入れられやすくなったことからヒントを得て、アート作品であってもたくさんの人に届けることができるというイメージで、このような展示方法を採用したという。
2Fの会場では、オルデンバーグとヴァン・ブリュッゲンが1985年にヴェネツィアで行った伝説的なパフォーマンス《Il Corso del Coltello》の一環として発表した《Knife Ship》を1/12のスケールで再構成した作品、《Knife Ship 1:12》(2008年)が目玉となる。
他に、ニューヨーク・メトロポリタン美術館の屋上に設置されていた、《Architect’s Handkerchief》のモデル作品《Model for Architect's Handkerchief》(1997年)や、版画作品の数々、オルデンバーグがヴァレンタインや誕生日に妻にプレゼントした、愛情あふれる作品も観ることができる。
【会期】7月17日(木)〜8月23日(土)
【休廊日】月曜
【開廊時間】11:00〜20:00(19:00〜20:00、日曜の18:00〜20:00はアポイントメント制)
【写真】クレス・オルデンバーグ「いろいろ」展示風景、Claes Oldenburg: This & That、1F; Azabudai Hills Garden Plaza-A 5-8-1 Toranomon, Minato-ku Tokyo、 Jul 17 − Aug 23, 2025、 Photography courtesy Pace Gallery
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