宮永愛子個展「万寿の園」

Gallery & Restaurant 舞台裏(麻布台ヒルズガーデンプラザA B1)

  • 2025/9/5(金)
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宮永愛子個展「万寿の園」

 移ろいゆく時間を繊細な手法で捉えた作品を制作する現代美術家、宮永愛子の展覧会が開催中。

 日用品をナフタリンでかたどったオブジェや、樹脂、ガラスの彫刻や塩を用いたインスタレーションなどで時間を視覚化し、「変わりながらも存在し続ける世界」を表現する宮内。
本展では、時の流れとともに大きく変貌した麻布台ヒルズ周辺地域の歴史をリサーチし、街の変化を反映した作品を展開すると聞き、期待に胸を躍らせながらギャラリーへと赴いた。

 会場では、宮内がフィールドワークを通して出会った人や土地にちなんだ作品が並ぶ。
この地に生まれ育った人にとって『懐かしいもの』とは何かと、インタビューしたご夫婦の回答は「ポスト」。麻布台ヒルズ前にあるポストを見ると、今はなくなった街の風景が浮かんでくるという。
 そのポストに書かれていた『万寿園前』という名前に宮内の想像が膨らみ、ポストが見てきたいくつもの物語を「万寿の園」として紐解きたいと、調査が進んでいった。

 「幼少期に東京タワーが建ち、目の前に未来が見えた。タワーまで走って、その前で上げる凧は格別だった」という話からインスピレーションを得た《万寿の園 - 未来と凧上げ-》は、木製の小箱の中に入った小さな凧とガラスの軍配がセットとなっており、時々中を取り出して楽しむ宝箱のような作品だ。軍配の型は宮内の実家で曾祖父の代から営む京焼の「宮永東山」に伝わるものが使われており、100年以上前の型に今の空気を満たすという面白さと、10年、20年後にはまた違った見方ができる楽しさがある。

 また、近くにある西久保八幡神社は、江戸城築城に際し現在の地に遷されたといわれるが、それ以前からここには縄文貝塚があったそうだ。《詩を包む- 縄文(西久保八幡神社)/貝-》は、縄文時代のものと思われる貝が、自身が纏う古の空気や土地の記憶とともにガラスの中に閉じ込められており、タイムカプセルのようにも見える。

 どの作品もそのまま見てもユニークで美しいが、宮永のフィールドワークをまとめたパンフレットとあわせて観ると、この地を昔から知る人との対話や、宮内の飽くなき探求心が読み取れるエピソードを通し、をさらに奥深い鑑賞体験となる。

 宮永のアイコンの一つともいえるナフタリンを使った作品《万寿の園》は、クラシカルなカバンの中にガラスでできた手紙と、ナフタリン彫刻の鍵束が入っている。
鍵束は今回の調査でのキーパーソンともいえる古道具屋を営む人から借りたものを模しているが、気化しやすいナフタリンは環境や時間の経過により少しずつ形が変化し、今見ているものが10年後も同じ形をとどめているかはわからない。
変化する街と同様に、時間とともに移ろいゆく姿を楽しめる、まさに本展の根幹となる作品だ。

【会期】8月30日(土)〜10月19日(日)
【定休日】月曜 ※祝日の場合は翌平日が休業日
【時間】ギャラリー:11:00〜20:00 レストラン:平日13:00〜22:00、土曜 13:00〜21:00、日曜 13:00〜17:00
【写真】宮永愛子個展「万寿の園」展示風景 / Photo by Ryo Yoshiya / 写真提供:Gallery & Restaurant 舞台裏 / ©MIYANAGA Aiko, Courtesy of Mizuma Art Gallery

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