「幕末土佐の天才絵師 絵金」

サントリー美術館

  • 2025/9/9(火)
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「幕末土佐の天才絵師 絵金」

 幕末明治期に数多くの芝居絵屛風を描き、地元では「絵金さん」と呼ばれ親しまれている、土佐の絵師・金蔵(1812〜76年)に光を当てた展覧会が開催中。
 金蔵が手がけた芝居絵屛風の多くが神社や自治体などに分蔵されており、それらをまとめて観ることができる機会は滅多にない。高知県外での展覧会は半世紀ぶりとなり、東京の美術館での大規模な回顧展は今回が初めてとなる。

 もとは土佐藩家老桐間家の御用を勤める狩野派の絵師であった金蔵は、33歳の頃御用絵師の身分を剥奪され、城下を追放されてしまう。その後、町絵師として活動したため確かな資料は残されておらず、謎の多い人物でもある。
 だが、150年近く経った今も絵金の芝居絵は高知の各所で夏祭りの場で飾られ、提灯やろうそくの明かりで浮かび上がる美しく鮮烈な絵は、見る者に強い印象を残す。

 絵金が描く作品を一言で表すなら「恐ろしくて美しい」。歌舞伎や浄瑠璃の物語をテーマに赤、黒、緑などの極彩色で描き、躍動感のある動きを写し取った絵が特徴だ。

 会場に入ってすぐ正面に展示されている《伊達競阿国戯場 累》は、一定の時間で照明の明るさや色あいが変化し、昼の光、日が頃く頃のほの暗さ、ろうそくの光で照らされたイメージが再現されている。
まさに修羅場といえる物語の山場を描いたこの作品を、ろうそくをイメージした光で鑑賞すると、その美しさ、絵の場面の恐ろしさが際立つ。

 「第1章 絵金の芝居絵屛風」では、歌舞伎や浄瑠璃の一場面が描かれた作品が並ぶ。
仙台藩の御家騒動を描いた《伽羅先代萩 御殿》では、緊張感あふれる場面が描かれているが、悪役がわかりやすくドクロの柄の衣装を着ているなど、誰が見ても楽しめるよう描かれている。
 また、絵の左上に小さく芝居での次の場面「床下」で出てくる悪党・仁木弾正が描かれているが、絵の中に前後の場面が小さく描かれていることが多く、ストーリーの流れが分かりやすいのも絵金の特徴だ。この演目を観たことある人は、仁木弾正が悠然と花道を歩く姿が浮かぶだろう。

 また、芝居の内容が分からなくても、登場人物の相関図やこの絵ではどのような場面が描かれているかなど、とても分かりやすく説明されているので楽しく鑑賞できる。

 続く「第2章 高知の夏祭り」へと続く階段を下りると、思わず声をあげたくなるようなしかけが待っている。
東京で高知の夏祭りの雰囲気が楽しめるよう、神社の夏祭りで絵金の芝居絵屛風が絵馬台(台提灯)に飾られる風景が再現されているのだ。
 参道をまたぐ山門型の絵馬台などに飾られ、提灯に照らされた極彩色の絵金を見上げながらその下をくぐる鑑賞体験は、南国土佐の夏祭りに足を運び絵金作品を観たいと思わずにはいられない。

 その他、最後の章では屏風や絵巻、軸物以外の絵金の作例と、絵金と深い関わりのあった絵師の作品を観ることができる。

 今から50年以上前に雑誌に特集されたことを機に一時ブームになった絵金だが、近年に高知県香南市赤岡町に絵金蔵が開設され、作品を保存・研究・展示する環境が整い、絵金の画業を再評価する機運が高まっている。この機会に、一度見たら忘れられないほど鮮烈で美しい絵金の世界にふれておきたい。

【会期】9月10日(水)〜11月3日(月・祝) ※会期中展示替えあり
【休館日】火曜(9月23日、10月28日は18:00まで開館)
【時間】10:00〜18:00 (金曜、11月1日(土)、2日(日)は20:00まで、9月26日(金)、27日(土)は六本木アートナイトのため21:00 まで開館) ※入館は閉館の30分前まで
【画像】「幕末土佐の天才絵師 絵金」展示風景
左:伊達競阿国戯場 累 二曲一隻 香南市赤岡町本町二区所蔵 【通期展示】 奥:浮世柄比翼稲妻 鈴ヶ森 二曲一隻 香南市赤岡町本町一区所蔵 【通期展示】

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