梅津庸一「凖応用美術(室内デザイン、風炉先屏風、素描、版画、陶板)」

六本木ヒルズ A/Dギャラリー

  • 2025/9/19(金)
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梅津庸一「凖応用美術(室内デザイン、風炉先屏風、素描、版画、陶板)」

 アート・コレクティブ「パープルーム」の主宰としても知られる、美術家・梅津庸一の個展が開催中。

 本展では梅津がコロナ禍以降、集中的に取り組んできた版画や陶芸を中心に、素描、陶板、室内デザイン、風炉先屏風など、ジャンルを横断した作品を通して、独自の美術世界を築いてきた梅津の美術のあり方そのものを問い続ける姿が浮かび上がる。

 「今回は、絵画や彫刻など、いわゆる『美術の王道』と言われるものではなく、版画や陶芸などその周辺にあったものを中心に構成しています。最近、版画工房や製陶所など、工房の人たちと協働することが多いのですが、現代美術の作家が工房と協働というと、自身のアイコンとなる作品をグッズとして発注するというイメージがあるかもしれません。でも僕は工房の中に深く入り込んで一緒につくることを大切にしています」。

 人が集まることができなかった時期、東京に息苦しさを感じた梅津は滋賀県・信楽に拠点を移し、本格的に作陶を始め、今でも信楽と行き来しながら制作を行っているそうだ。
本展では、陶芸作品などが中心かと思いきや、梅津の表現の幅広さが垣間見えるような構成に、ワクワクする。

 特に見てほしい作品は、と尋ねると
「本展では自分の代表作というよりは、小さな試みが散らばっているように分散的なので、どれを(見てほしいか)と言われても分からないです。作家はキャリアを積んでいくと自分の代表作とか売れる作品を量産しがちです。その気持ちも分かりますが、作家は試行錯誤し続けてテイストもモチーフも変えながら作り続けてこそ、だと思います。それを形にしたら、今回の展示となりました」。

 本展会場はミュージアムショップに併設されたギャラリーとなる。美術館帰りの人やワーカーが昼休みに足を運ぶなど、気軽にアートにふれることができる場だ。
「ここは場所柄、ポップな作品の展示が多い印象があります。それはとても良いことだと思っています。でもその反面、危機感も感じるのです。単に生活の中のインテリアとなってしまうと、美術である必要がないのでは、と思うのです。そう言う自分の作品もグッズ化されている面もあり、作家として譲れないところと、皆さんの手に届きやすい形にするということとの葛藤があります」。

 そのような潮流の下でも、作家各々が探求心を失わずに作り、熱心な観客を得ることはできるはず、と考える梅津の制作に向き合う姿勢は、《夜の花粉》(2023〜2025年)というエッチングの作品の制作年に幅があることからも読み取れる。
「2023年から銅版画を始め、この作品の版も2023年に一旦制作したのもですが、それに2年分の経験を付与しました。23年の時点ではエディション作品としては出さなかったのです。40枚ほど刷るので、駄作を作ってしまうと工房に迷惑となりますし、納得いく形にしてから工房にゆだねたいのです」。

 絵画や彫刻など独立した芸術作品『純粋美術』の純粋性と、実用品に装飾的デザインを取り入れた『応用美術』の実用性。双方が不徹底であることによって生まれる余剰にこそ、今の僕の仕事場がある、と梅津は本展のタイトルを「準応用美術」と名付けた。
「今後も取り組みたい手法がある」と語った梅津の飽くなき探求心から生み出される作品で、「つくること」の本質に向き合ってみたい。

【会期】9月20日(土)〜10月5日(日)※会期中無休
【時間】12:00〜20:00

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